「??‥聞こえなかったヒル魔くん?」 「‥‥。」 返事のなかったヒル魔をまもりは隣から覗き込む。 眉間にシワの寄ったヒル魔の表情からとりあえず先程まもりが言った言葉は聞こえてはいた様だったが、まもりはヒル魔からの返答を求めて言葉を続けた。 「‥聞こえてなかったんなら、もう一回始めから言いましょうか?」 「‥一回聞けば充分だ。」 わざとらしいまもりの言い回しに、ヒル魔は溜息混じりに返事を返した。 「じゃあヒル魔君の返事は?」 「どう考えても頼む相手を間違ってるだろうが。」 「でも‥欲しいんだもん。」 潤んだ目を向けられてヒル魔はチッと舌打ちした後視線をまもりから前方に移した。 「ずっと大事にするから、ね?」 「テメェの事情なんざ知らネェよ。」 「ヒル魔君の誕生日にはヒル魔君の欲しい物買ってあげるから。」 「金で買えるもんなら自分で買う。テメェも欲しいなら自分で買えよ。」 彼女の望みならなんだって叶えてやりたいと思う男は沢山いる。 そして彼女の恋人だったヒル魔もそういった思いがないわけではなかった。 ただ問題だったのは彼女の欲しがった誕生日プレゼント。 それが彼のイメージからあまりにも掛け離れていた為に、ヒル魔は快く承諾等出来なかったのだ。 「もー!ヒル魔君のケチん坊ッ。」 「俺にそんなもんを買って来いって事が間違ってんだよ!」 「でも今年の誕生日はヒル魔君から《ロケットベアのヌイグルミ》が欲しいのっ。」 ‥‥そう、彼女が所望しているのは彼女の大好きな《ロケットベア》のヌイグルミ。 まもりの部屋にあるそれと同じ物をヒル魔に買って来させようとしているのだ。 「‥お前はそれを抱えて帰る俺の姿を想像して発言してんだろうな?」 「‥‥‥。‥想像、出来ない‥かも‥。」 「だろ。なら諦めろ。」 まもりを家の前まで送った後、ヒル魔は小さくあくびをして自宅へ向かう道を歩き出した。 「‥ヒル魔君!」 「明日も時間厳守だ。遅れんなよ糞マネ。」 見送るまもりにヒル魔は背中を向けたままそれだけ言って去って行く。 その背中は暗黙のままその話は終わりだとまもりに告げている様だった。 |